それは真夜中に迫ろうかという時間帯。 昼間人口がやたらと多いわりに、夜間人口はまったくないおかげで、近代都市のわりには閑静としている、とある都市。そしてそのとあるビル街通り。そこは、コンビニや怪しげな店のネオン、そういったものすら少しも入り込んでこない、完璧な『静けさ』に満ちた場所。 そして、そのビル街通りの一角で。 少女が、誰かをまちぼうけしていた。 「……、…………」 真っ黒なパンツスーツに、真っ黒なブラウスとネクタイをしめて、ただ白い顔と手の浮かびあがっているだけの彼女。蝋人形のようにピクリとも動かずに、遅い、と彼女は、ただただ無言で考えているのだった。確かにここで待ち合わせをしたはずだ、と。人気のない、おもしろくもない、ガラスと鉄骨の塊が立ち並ぶだけの、ともすれば不気味なこのビル街を、待ち合わせ場所に指定したのは彼女である。その目的は、まだ、顔も見たことのない、『仕事仲間』と会うためで。 「……………………、……」 彼女はほんの昨日、仕事のやり方レッスンだとか研修だとかを終えたばかりの、新人だ。所詮新人は先輩の言うことを聞いて、まあ最初の一年はヘイコラするものだとばかり、賢い彼女は思っていたのだが、どうも彼女の先輩は違うらしい。常に平静、むしろ無感動ですらある彼女の心に、クエスチョンのさざ波一つを立たすぐらいには、わざわざ彼女の方から場所指定をするように仕向けた先輩というのは、彼女にとって『予測困難:危険度高』な存在だった。 「…………?」 そもそも、顔写真すら、会社の方からもらえなかったのが、彼女の不信を濃くさせた。角度一度程度ぐらいではあったが、小首をかしげつつ、彼女はなおも思考する。私は何か、騙されているのではないか、と。もしかすると、会社自体が架空の存在であり、誰かが私を陥れようとしているのではないか、職業柄、それはあり得ることなのだから、と、彼女は少し体の筋を固くさせた。 その時。 「……!」 魚のいない水槽のように、黙りこくっていたビル群が、次々に、ピカピカと発光しだした。 すわ、やはり警察の摘発か、ライバル会社の罠か、と彼女は隠れ場所のリストアップと、そこに逃げ込むまでのステップの計算をする――しようと頭は切り替わっていたが、視覚から入ってきた情報に、頭の中身は全てふっとんだ。 Hello World, and 02 それが、ビルの窓に張り付けられた、LED豆電球の光による、アルファベット文字の言葉だと理解するのに、彼女はそう長くはかからなかった。むしろ、自分のコードネーム『02』を目の中に捕えた瞬間、彼女はほんのわずかながらも、驚きで口が開いた。 そして。 「ハッピーバースデー!」 場違いな言葉と、パン、と小さなクラッカーがはじける。ちゃちな紙吹雪がひらひらと彼女の前で舞った。 音もなく表れた、その人物、自分と同じ年くらいの少年に、彼女の焦点がゆっくり合うと。 彼女は、開いた口を軽く結びなおして、無表情で蹴とばした。